介護の仕事は、ただでさえ体力的・精神的にハードな現場です。
そんな中で妊娠や出産を迎えると、「迷惑をかけているかもしれない」「お休みをもらって申し訳ない」と感じてしまうこともあります。
その一方で、周囲の職員も「また誰かが産休に入るのか・・・」「結局フォローするのはこっち!」といった空気が漂うことも。
こうした中で起きやすいのが、妊娠・出産を理由にした嫌がらせ、いわゆるマタニティ・ハラスメント(マタハラ)です。
この記事では、介護現場で起こりがちなマタハラの事例や背景、対策についてやさしく解説しながら、妊娠中でも気持ちよく働ける職場づくりについて一緒に考えていきます。
マタハラの法律上の定義
マタハラ(マタニティ・ハラスメント)とは、妊娠・出産・育児などを理由に、職場で嫌がらせを受けたり、不利益な扱いをされることをいいます。
厚生労働省が定める指針では、マタハラには主に以下の2つの型があるとされています。
制度利用への嫌がらせ型
産休・育休・時短勤務などの制度を利用しようとしたり、利用していることを理由にした嫌がらせです。
- 「育休なんて取るの?みんな我慢してるよ」
- 「時短で働くなら給料も減らすべき」
- 制度の利用を理由に、配置転換・減給・契約更新を拒否された
制度を利用する「権利」は労働者にあるのに、それを妨害したり文句を言ったりするのはNGです。
状態への嫌がらせ型
妊娠中・出産後・育児中といった「状態そのもの」への嫌がらせです。
制度の利用が関係なくても、体調の変化や働き方への配慮を理由にして嫌がらせを受けるケースです。
- 「妊婦なんだから気を使えって言いたいの?」
- 「迷惑だから夜勤無理とか言わないでよ」
- 「妊娠したなら辞めたら?」
- 無視される、悪口を言われる、孤立させられる
このように、本人の状態に対して精神的・身体的な苦痛を与えるような言動もマタハラに該当します。
介護現場で起きやすいマタハラの背景
介護業界では、マタハラが見えにくい形で起こっていることがあります。これは業界特有の人手不足や夜勤・力仕事の多さといった職場環境が大きく関係しています。
人手不足で「制度利用」が歓迎されない空気
介護の現場は常に人手が足りない状態が続いているため、誰かが産休や育休に入ることで、残る職員の負担が一気に増えることもあります。
そのため、
- 「また誰か休みに入るのか…」
- 「正直迷惑なんだけど」
- 「こっちは子育て終わってるのに」
といった空気が広がりやすく、制度を使うこと自体に引け目を感じさせられるケースがあります。
「体力勝負」な仕事で妊婦への配慮が不足
介護の仕事は体力的にハードで、利用者の移乗や入浴介助など妊娠中には負担になる作業も多く含まれています。
しかし、配慮をお願いすると、
- 「それもできないの?」
- 「じゃあ何ができるの?」
- 「勝手に妊娠したのはそっちでしょ」
といった心ない言葉をかけられたり、戦力外のように扱われて孤立することもあります。
夜勤やシフト制がハラスメントの温床に
介護施設では夜勤や早番・遅番のシフトが基本ですが、妊娠や育児の関係でこれらに入れなくなると、
- 「夜勤に入らないなら時給下げてもいいよね」
- 「平日だけって都合よすぎ」
- 「他の人に迷惑がかかるのわかってる?」
といったプレッシャーがかけられ、無理なシフトを断りづらい雰囲気が生まれてしまいます。

友達の職場では、上司に「今年は妊娠しないでね!」と言われたこともあったそうです。
自分の人生なのに制限されるのは嫌ですよね・・・
マタハラから自分を守るためにできること
介護の仕事は身体的にも精神的にも負担が大きく、妊娠中や育児中は特に無理をしがちです。
しかし、マタハラを防ぐには以下のような「自分を守る行動」がとても大切です。
体調や働ける状況はきちんと伝えておく
「迷惑をかけたくない」「弱音を吐けない」と無理をしてしまう人も多いですが、
我慢はかえってリスクになります。
- つわりやお腹の張り、体調の変化などはきちんと伝える
- 主治医からの指示がある場合は、職場に共有する
- できること・できないことを明確にしておく
日頃からオープンに伝えておくことで、誤解やトラブルの予防になります。
「これってマタハラ?」と思ったら証拠を残す
不快な言動があったときは、後から冷静に対応できるよう証拠を残しておきましょう。
- 言われたこと・されたことをメモに残す(日付・場所・内容)
- LINEやメールなどのやり取りはスクショして保存
- 状況がひどい場合は、録音も選択肢に
感情的にぶつかるより、証拠をもとに冷静に相談・報告する方が安全です。
一人で抱え込まず、相談する
マタハラは我慢すれば収まるものではなく、周囲の力を借りることが大切です。
- 信頼できる上司や同僚に相談する
- ハラスメント相談窓口(社内または外部)を利用する
- 労働基準監督署や都道府県労働局に相談する
相談は「勇気」ではなく「当然の権利」です。
“助けて”と言える環境を、自分のために活用しましょう。
法律や制度を知っておく
知っているだけでも自信がつくことがあります。
以下のような法律は、あなたを守るためにあります。
- 【育児・介護休業法】:妊娠・出産・育児中の不利益な取り扱いを禁止
- 【男女雇用機会均等法】:妊娠を理由にした解雇や降格などを禁止
- 【労働基準法】:母性健康管理措置(休憩・休業・通院など)の保障
心配なときは、厚労省のハラスメント対応ページや労働局のサイトを見てみるのもおすすめです。
介護現場でマタハラを防ぐには?職場ができる4つの対策
介護現場でマタハラをなくすには、職場の理解と仕組み作りが欠かせません。
ここでは、マタハラを未然に防ぐために職場が取り組める4つの具体策を紹介します。
管理職・リーダーがマタハラを正しく理解する
マタハラ防止の第一歩は、管理職やリーダー層の意識改革です。
- 妊娠・出産・育児に関する法律や制度の理解
- 妊娠中の職員に必要な配慮の把握
- 不利益な扱い・ハラスメントとは何かを学ぶ
知識をもとにしたリーダーシップが必要になるため、定期的なハラスメント研修やマニュアル整備が効果的です。
チーム内で「お互いさま」の空気をつくる
マタハラは、何気ない一言や態度からも生まれます。
日ごろから声をかけあい、助け合える関係性を築いておくことが大切です。
- 体調不良や急なお休みに柔軟に対応
- 「また休み?」といった陰口を見逃さない
- 産休・育休はおめでたいこととして受け止める
お互いさまと思えるような温かい空気づくりがマタハラ予防になります。
妊娠・育児中の職員に配慮したシフトや業務調整
妊娠中・育児中でも安心して働けるように、働き方の柔軟な調整が求められます。
- 夜勤や力仕事を一時的に免除
- 短時間勤務や固定シフトの導入
- シフト作成時に配慮事項を共有
制度だけでなく実際の現場に合わせるのがポイントです。
調整できないような状況であれば、普段の仕事から見直しが必要です!
「困った」と言える相談窓口を用意する
マタハラを受けた人が安心して声をあげられる環境づくりも重要です。
- 匿名で相談できる窓口やBOXを設置
- 外部相談先の情報を共有
- ハラスメント対策の担当者を決める
「何かあったらここへ相談できる」という安心感がマタハラ防止につながります。
まとめ:妊娠中も気持ちよく働ける介護現場を目指して

介護の職場は人手不足の影響もあり、お休みを取ることに敏感になりがちです。
特に、自分が我慢して働いていると、「産休に入る人がずるい」「羨ましい」といった気持ちを抱いてしまうこともあるかもしれません。
実を言うと、私も妊娠中の職員を見て、「いいな」と感じたことがあります。
しかし、妊婦さんも体調管理や不安と向き合いながら、毎日頑張って働いているということに気づいたとき、自然と感謝の気持ちが生まれました。
マタハラは、悪意がなくても、職場の空気や無意識の言動から起こってしまうことがあります。
だからこそ、妊娠中の方がどれだけ不安や体の負担を抱えているか、まずは知ること・想像することが大切なのだと思います。
もちろん、職場によっては、妊娠を理由に「やらない」「甘える」と思われてしまうような場面もあるかもしれません。
ですが、お互いが理解し合い、思いやりを持って働ける環境こそが、介護現場にとっても、妊娠中の職員にとっても大切なはずです。
マタハラを“誰かの問題”とせず、みんなで防いでいくために・・・
このブログが、そんなきっかけの一つになれば嬉しいです。
コメント